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防災ヘリポート

「フェーズフリー」で考える未来の防災:過去の事例から見るヘリポートの重要性

「フェーズフリー」で考える未来の防災:過去の事例から見るヘリポートの重要性

災害大国と呼ばれる日本において、医療機関や地域の防災拠点の在り方が問われています。 特に、発生が懸念される首都直下地震や南海トラフ巨大地震、あるいは大規模イベント時の事故など、予測困難な事態に対して、私たちはどう備えるべきでしょうか。
その鍵となるのが、「空の道」の確保と、日常と非常時を切り離さない「フェーズフリー」という考え方です。

本記事では、近年の災害事例から見えてきた「空の活用」の重要性と、日常から備える新しい防災のカタチについて考えます。

1. 陸路が断たれた時、命をつなぐ「空の道」

災害時、最も恐ろしいのは「移動手段の喪失」です。 記憶に新しい能登半島地震では、土砂崩れや亀裂により多くの道路が寸断されました。救助隊が陸路で近づけず、被災地支援は困難を極めました。

この時、生命線となったのがヘリコプターです。妊婦の方や高齢者をはじめ、孤立した地域から安全な場所へ人々を搬出する手段として、改めて「空の道」の有効性が実証されました。

「受け入れ」だけでなく「送り出す」備えを

これまでヘリポートというと、「救急患者を病院へ運び込む場所」というイメージが強かったかもしれません。しかし、大規模災害時には「被災地(孤立した場所)から外へ人々を逃がす(広域搬送)」という役割が重要になります。

首都直下地震や南海トラフ巨大地震、あるいは多くの人が集まるイベント時の災害など、想定外の事態で地域のキャパシティを超えてしまった場合、そこから人々を安全な地域へ送り出さなければなりません。 そのためには、病院に限らず、地域の防災拠点となる施設に「空の玄関口」を確保しておくことが求められているのです。

2. 「10分」か「数秒」か ー 真備町・西日本豪雨の教訓

ヘリポートの有無が、救助スピードを劇的に変えることを示す事例があります。 2018年7月の西日本豪雨。岡山県倉敷市真備町では大規模な浸水が発生し、「まび記念病院」には入院患者や医師、避難してきた住民を含め300人以上が取り残されました。

ホイスト救助の限界とヘリポートの価値

当時、病院の屋上に着陸できるヘリポートはありませんでした。そのため、自衛隊ヘリは空中でホバリングし、ワイヤーで一人ずつ吊り上げる「ホイスト救助」を行わざるを得ませんでした。

「Rマーク」は10分で1人しか救助できない
「Hマーク」は1分で10人を救助できる

ホイスト救助の場合 1人の救助に約10分かかる。
ヘリポートがある場合1分で約10人が搭乗可能。

もし屋上にヘリポートがあれば、300人の救出は数時間で完了していたはずです。これは病院だけの話ではありません。もしそこが、数百人が避難している学校や公民館だったとしたらどうでしょうか。 1分1秒を争う災害現場において、「着陸して一度に大人数を乗せる」ことができる環境の有無は、極めて大きな差となります。

3. 日常も非常時も役立つ「フェーズフリー」なヘリポート

とはいえ、「いつ来るか分からない災害のために、専用のヘリポート施設を作るのは難しい」というのが現実的な課題でしょう。

 そこで今、注目されているのが「フェーズフリー」という考え方です。日常時(いつも)と非常時(もしも)を分けず、普段使っているものを災害時にも役立てようというものです。

ヘリポート付防災コミュニティセンターの提案

この観点から、ヘリポートに「多目的な機能」を付加する新しい施設のあり方が提案されています。

ヘリポート付き施設のイメージ

構造 ハザードマップに基づき、津波や洪水による浸水を避けるため、高く嵩上げ(かさあげ)する。
屋上 緊急離着陸場(ヘリポート)
屋内
(下層部)
平時 地域の集会所、コミュニティセンター、あるいは公園のようなスペースとして活用する。
災害時 支援物資の備蓄倉庫や受け入れ拠点、一時避難所として機能する。

普段は地域の人々が集う場所が、いざ道路が寸断された時には、空からの支援を受け入れ、人々を避難させる「地域の砦」へと変貌する。 こうした多機能型の防災拠点は、これからのまちづくりにおいて重要な選択肢となるでしょう。

平時は公民館などに
災害時は避難所に

4. ハザードマップを見直し、未来への備えを

各自治体のハザードマップを見れば、その地域で津波や洪水のリスクがどの程度あるか予測できます。 「もしここが水没し、陸路が途絶えたら?」という問いは、あらゆる施設管理者、そして私たち一人ひとりが考えなければならない課題です。

万一の事態に備え、避難施設や備蓄倉庫を兼ねた「ヘリポート」という選択肢を持つこと。それは、地域の未来と多くの命を守るための、確かな投資となるはずです。