高層ビルヘリポート
屋上ヘリポートは「嵩上げ式」が正解!その理由を解説
ビルの屋上ヘリポートには、床にヘリコプターが直接降りる「直降り」タイプと、台座で着陸帯を一段高くする「嵩上げ(かさあげ)」タイプがあります。
一見、シンプルな「直降り」が良さそうですが、専門家は「嵩上げ」タイプを強く推奨しています。 このコラムでは「嵩上げ」タイプが屋上ヘリポートに最適な理由を解説します。
風の通り道を作ることでビル風の影響を抑える
高層ビルへの離着陸時に大きな課題となるのが、ビル特有の複雑な風「ビル風」です。特に屋上面に直接着陸する「屋上直降り」は、ビル風が生む急激な下降気流「ダウンバースト(強烈な下降気流)」の影響を受けやすくなります。
風上からビルの側面に当たった風は、その約3分の1が屋上方向へ激しく吹き上がります。これにより、屋上の端では風速が急激に増します。一方で、風下側では気圧が下がり、そこに風が巻き込むことでダウンバーストが発生します。

※ ダウンバーストが発生すると…
1:進入時、ビル手前の上昇気流で機体がフワッと持ち上げられる。
2:パイロットは高度を保とうと反射的に機体を下げようとする。
3:その直後、今度は強烈なダウンバーストに巻き込まれ、機体が制御不能になる恐れがある。
さらに屋上には排気口などもあり、屋上面付近の風向は不安定になります。そのため、国際民間航空機関(ICAO)も「屋上直降り」はなるべく避けるよう指導しています。
ダウンバーストのリスクを劇的に下げるのが、着陸帯を屋上スラブ面から持ち上げる「嵩上げ式」です。 具体的には、屋上面から3メートル程度高くし、その下を空洞にします。

山の尾根を越える風と同様、障害物(屋上面)から十分なクリアランス(隙間)を取ることで、乱れた風やダウンバーストの多くはヘリポートの下を通り抜けていきます。 これにより、ヘリコプターが発着する高さの気流が安定し、安全な離着陸が可能になります。
周辺の障害物をクリアし、飛行ルートを確保する
嵩上げ式のメリットは風対策だけではありません。位置が高くなることそのものが、航空法上の制限をクリアするために役立ちます。
ビルの屋上は、パラペット(手すり)、避雷針、アンテナ、高架水槽など、航空法で「障害物」とみなされる突起物で溢れています。 屋上直降りの場合、これらの障害物が、離着陸に必要な進入・離脱ルート(進入表面など)に抵触してしまい、ヘリポートの設置自体が難しくなるケースが多々あります。
ヘリポート自体を物理的に嵩上げしてしまえば、これらの屋上障害物よりも高い位置に着陸帯を確保できます。これにより、周囲の障害物をパスした安全な飛行ルートを設定しやすくなるのです。
建物への衝撃荷重を抑え、構造的な負担を軽減する
次に、設計上決して避けては通れないのが、ヘリコプター着陸時の「衝撃」に対する建物の強度問題です。数トンあるヘリコプターが着陸する際、床面には機体重量の何倍もの衝撃荷重がかかります。ICAO(国際民間航空機関)の指針に基づく設計基準では、この負荷に対して以下の床面強度が求められます。
・屋上直降り: 機体重量の4.5倍に耐える強度
・嵩上げ式(桟橋タイプ): 機体重量の2.5倍に耐える強度

屋上直降りの場合、通常の屋上よりもはるかに高い床面強度が要求されます。これに耐えるためには、屋上スラブだけでなく、それを支えるビルの柱や梁そのものを非常に強固に設計しなければなりません。一般的に、この要求に耐えうる屋上面をもつビルはほぼありません。
一方、嵩上げ式であれば求められる強度は2.5倍程度に抑えられます。 建物本体へのダメージリスクを減らし、現実的なコストで安全性を確保するためには、嵩上げ式が非常に有効な選択肢となります。
デッドスペースを有効活用可能
最後に、ビルオーナーや設計者にとって見逃せないメリットがスペースの有効活用です。
屋上直降りの場合、広大な面積を完全に空けておく必要があり、他の用途には使えません。都心のビルにおいて、このデッドスペースは大きな損失です。 しかし、アルミデッキ等で組まれた嵩上げ式ならば、ヘリポート下部に空いたスペースを電気設備や配管、室外機等の設置場所として活用可能になります。
まとめ
屋上ヘリポートを嵩上げ式にするメリットは、大きく4点に集約されます。
1:風の通り道を作ることでビル風の影響を抑える
2:位置を高くすることで障害物の干渉を防ぐ
3:建物への衝撃荷重を抑え、構造的な負担を軽減する
4:ヘリポート下部の空間を有効活用できる
運航の安全性と、建物としての使いやすさ。この双方を無理なく満たせる点が、嵩上げ式が多くの現場で選ばれている理由です。