コラム
「H」と「R」、何が違う?公的基準に基づくビルの屋上マークの正しい見分け方
高層ビルの屋上には、ヘリコプターに向けたサインとして「H」や「R」の文字が描かれていることがあります。これらは単なるデザインの違いではなく、消防庁の指導基準に基づき、その「機能」と「構造」によって明確に使い分けられています。
Hマーク:緊急離着陸場

Hマークは、正式には「緊急離着陸場」と呼ばれます。
消防庁の基準において、この場所は「ヘリコプターが着陸し、消防隊員等が降下、あるいは離陸することができる場所」と定義されています。最大の特徴は、文字通りヘリコプターが実際に屋上の床面に着陸できるという点です。
そのため、設置される建物には非常に厳しい基準が求められます。まず、数トンにも及ぶヘリコプターの総重量に加え、着陸時の衝撃荷重に耐えられるだけの強固な床構造が必要です。さらに、機体全体が安全に収まるよう、機種にもよりますが概ね20メートル四方などの十分な離着陸スペースを確保しなければなりません。
▶︎対象: 高さ概ね100mを超える超高層ビルなど
▶︎サイズ: 20m × 20m 以上
Rマーク:緊急救助用スペース

Rマークは、正式には「緊急救助用スペース」、または「ホバリングスペース」と呼ばれます。
この場所の定義は「ヘリコプターが着陸することなく、ホバリング(空中停止)することにより、救助活動を行うことができる場所」とされています。Hマークとの決定的な違いは、ヘリコプターは床面には着陸しない(接地しない)という点です。救助活動の際は、隊員がウインチ(巻き上げ機)を使用して降下し、同様に要救助者を吊り上げて収容します。
着陸はしませんが、安全な活動のために守るべき基準があります。救助活動を行うための空間として、概ね10メートル四方以上の平坦な場所であること、そしてその直上の空域に電線やアンテナなどの障害物がないことが求められます。
▶︎対象: 高さ概ね45mを超えるビルなど
▶︎サイズ: 10m × 10m 以上
なぜ2種類あるのか?
建築基準法や消防法では、一定の高さを持つ建築物に対し、非常時の救助活動用スペースの設置を求めています。
理想はすべてのビルに着陸できる「H」を設置することですが、建物の構造上の強度が不足していたり、都心部で敷地面積が狭かったりと、物理的に着陸場の設置が困難なケースが存在します。そうした場合の代替措置として、着陸はできなくとも空からの救助ルートを確保できる「R(緊急救助用スペース)」の設置が認められているのです。