V ポート
空飛ぶクルマは垂直離着陸ができるけど…。知っておくべき注意点と課題

未来の空の移動手段として期待される「空飛ぶクルマ」は、その多くが垂直離着陸(VTOL)を可能にする設計です。これは、ヘリコプターと比べ飛行障害のハードルが低くなるというメリットをもたらす一方、従来の航空機とは異なる、あるいはより高度な注意が必要なポイントも存在します。安全な空飛ぶクルマの運用を実現するために、どのような点に気を配るべきか、詳しく見ていきましょう。
1. 垂直離着陸の運用における留意点
「空飛ぶクルマ」が垂直降下する際、ヘリコプターのような大きなメインローターを持つ機体ではセットリング(急激な降下)の危険性があります。多翼機であれば、その危険は多少減ると考えられますが、全く心配ないとは言い切れません。よって上空から直接離着陸場所(Vポート)へ向けて垂直に降りることは、あまり推奨されません。垂直飛行はせいぜい10メートルから15メートル程度の高さに留めるべきでしょう。
2. 着陸時の衝撃荷重と着陸帯の強度
垂直離着陸、特に高所からの垂直降下は、着陸帯にかかる衝撃荷重を増大させる可能性があります。
ヘリコプターは、着陸帯の直上1~2メートルの位置でホバリング(空中停止)してから静かに着陸します。ここでセットリングに入っても、大事故につながる可能性は低いとされています。国際民間航空機関(ICAO)が定めるヘリポートの着陸帯の床面強度は、ヘリコプターが地上66センチメートルから「自由落下」した衝撃(秒速3.6メートル)に耐えることを求めていますが、これはセットリング時のハードランディングを想定したものと考えられます。
多翼機の「空飛ぶクルマ」がセットリングに入る可能性はヘリコプターよりは小さいとされていますが、もしヘリコプターよりもはるかに高い位置(10~15メートル)からの垂直降下中にセットリングに入った場合、着陸帯にかかる衝撃荷重はさらに大きなものを想定しなければならなくなります。


3. 周囲の障害物に関する問題
ヘリコプターの斜行離着陸では、着陸時が1/4以上、離陸時が1/8以上の進入角度を確保する必要があります。風向きによって離着陸方向が変わるため、ヘリポートの周囲にある1/8の進入角度ラインから突出するものは、飛行障害物となってしまいます。そのため、屋上ヘリポートの避雷針やエレベーター塔屋の配置など、設計時には厳密な確認が必要です。
垂直離着陸が前提となる「空飛ぶクルマ」では、このような飛行障害に関する問題の多くが解消されます。前述のようにあまり高い位置からの垂直降下は避けるべきですが、3メートル程度の障害物であれば大きな問題とはならないでしょう。
4. 騒音問題と遮音対策の重要性
都心にヘリコプターが離着陸する際、近隣住民との間で騒音トラブルが発生することがあります。特に、ヘリポートの近くに住んでいる住民からの苦情が多く、その主な原因は離着陸時の騒音です。
一般的にヘリコプターはエンジンを始動してから浮き上がるまでに10分程度の時間を要します。パイロットや整備士には安全のために多くの飛行前点検が義務付けられており、エンジン始動後にチェックする項目も多数あるからです。ドクターヘリなどは、エンジン始動から離陸まで短いですが、それでも3分程度はかかります。
空飛ぶクルマも同様に、離着陸時の騒音がトラブル要因になると考えられます。将来の「空飛ぶクルマ時代」には、都心の大型ビルに1日に何十回も空飛ぶクルマが離着陸することになるのでしょうから、Vポート設置者は最大限の騒音対策を講じる必要があります。
ヘリコプターは斜行での離着陸ですから飛行障害となるものをヘリポートの脇に設置することが出来ません。その点、垂直離着陸を前提とする空飛ぶクルマは飛行障害物の問題がありませんから、Vポート脇に「遮音壁」を設置することが可能です。遮音壁を建てる場合は、壁が音源に近いほど効果が大きくなります。
